2009年5月21日木曜日

W・B・イェイツ全詩集

W・B・イェイツ全詩集W・B・イェイツ全詩集
鈴木 弘

北星堂書店 1982-01
売り上げランキング : 235175

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

---感想---
来るべき時代のアイルランドへ

どうかわかって、私をこう見てほしいのだ、
アイルランドの受けた痛手をやわらげようと
民衆や物語、また、小唄や歌謡をうたった
ともがらの、まぎれもない兄弟であると。
私が少しでも劣っていると思われたくない。
神が天使族を作られるまえにアイルランドの
歴史は始まっていたのであり、その歴史の
紅い薔薇にふちどられた裳裾のはしが
本詩集のいたるところに動いているのだから。
「時」が声をあららげ、わめき出したころ、
紅い薔薇の、空を舞う足取りの旋律が
アイルランドの心臓を鼓動させはじめた。
かくて「時」はその燭台にいっせいに点火し、
ここでもかしこでも或る旋律を輝かせた。
願わくは、アイルランドの抱く思想はみな
旋律ある静寂にこそ、そそがれんことを。

ディヴィス、マンガン、ファーガソンと
並んでも私が劣るなどと思われたくない。
とくとよく吟味してもらえばわかろうが
私の詩はかれらのにもまして語っている、
肉体だけが横たわり、眠りにつく、あの
深淵でこそ見いだされるさまざまの不思議を。
というのも、四大の精霊たちがしきりに
私の卓のまわりを往き来しているからだ。
精霊は旋律のない心からは慌しく退去し
潮と風のなかに出て怒りわめくけれども
旋律のある道を踏みゆく者はかならずや
精霊と、視線と視線とを交わしあえるのだ。
人類はつねに精霊たちと長旅つづけ
紅い薔薇のふちどりある裳裾を求める。
ああ、月影をあびて踊る妖精たちの群れよ、
ドルイドの国よ、ドルイドのしらべよ!

できるうちに、きみたちに書きのこそう。
私が送った愛の生活を。私が知った夢を。
誕生を迎えた日から、死にいたるまでは
ほんの、またたきする瞬間にすぎない。
われわれも、われらの歌声も、恋情も、
測量士「時」が空に輝かせる天体も、
この机のまわりをしきりに往き来する
すべての行き暮れた精霊たちも、みんな、
すべてを焼き尽くす真理の法悦にひたりながら
過ぎ去ってゆき、おそらくは、愛や夢と
なんの関わりもない郷に行くのだろう。
神は白い御足で通りすぎてゆかれるのだから。
私は自分の心をこの詩集に鋳こんできた。
未来のほのかな時代のきみたちに知って
もらいたい。赤い薔薇にふちどられた裳裾を
どれほど皆とともに私の心が求めていたかを。


薔薇はイェイツにとって、愛の象徴であり、「神秘の薔薇」と呼ばれる処女マリアの象徴であり、アイルランドの象徴であった。また、イェイツの所属していた秘密結社「薔薇十字団」の象徴でもあって、イェイツは神秘的な瞑想のなかで薔薇を通して、人事・自然の万象を宇宙の諧調ある働きと照応させ、個人的な恋の挫折古代アイルランド伝説現代アイルランドの世相などを洞察した。

詩はあまり読まないのですが、じっくり吟味すると味わい深いですね!
いちばん気に入った作品でした。…少しアイルランドに興味をもったかも(笑)。

0 件のコメント: